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静岡の地酒について説明させていただきます。蔵元一覧へ 

 自然とともに生きる蔵

 酒を決める豊かな水

 はじめて志太泉の蔵を訪れたとき「ここに住めたら幸せだろうな」と単純にそう感じた。山肌をバックに静かに流れる瀬戸川。土手には桜の木が並び、セミたちがのんびり鳴いている。
 今が夏であることが残念だ。ぜひまた桜の咲き誇るころに訪れたい。新酒で満たされたグラスに映る淡い桜の彩り‥想像しただけでほほが緩む。
 さらに志太泉酒造を成す建物郡は、実に絵になる古風で美しい日本建築。それゆえ築後120年ほどたち老朽箇所を修繕したところ、あそこもここもと直すところが次々にでできたという。
「もう直りきらないです」
 今回案内していただいた望月社長はそういって頭をかいた。明治15年に創業したといわれる志太泉酒造。建物だけでなく、周りの風景も創業時とそう変わってないのかもしれない。
 
 蔵のすぐとなりを流れる瀬戸川にはカモや鮎も生息しているほど自然に満ちた環境。志太泉の母体となる水は、そんな瀬戸川の伏流水を地下30mからくみ上げている。
「お茶の大会でも必ずここの水を使用するんです」
 志太泉のオフィシャルサイトによると、ここでくみ上げられる水の全硬度は3.3。全硬度とは水の中に溶けているカルシウムとマグネシウムの合計量を表わしたもので、全硬度が高いと硬水、低いと軟水となる。日本ではほとんどの井戸水が20〜100におさまるなか、志太泉の3.3がどれほど顕著な軟水かがうかがえる。口に含むとその柔らかさがどこか懐かしい、ホッとする水だ。
 軽く柔らかで丸い水なので醸される酒も丸くなる。逆に硬い水だと豪快な酒になるという。静岡県志太地方の酒に見られる優しさは静岡酵母もさることながら、大井川水系がもたらす作用なのかもしれない。
 当然この水で米を洗い浸漬させ蒸米、製麹、仕込へと続いていく。蒸し米の具合を左右する重要な工程は洗米と浸漬。ここでは普通酒以外はざるに入れて手洗いをする。
 静岡の酒はとにかくよく洗って白水を極力なくす傾向にあるのだが、望月社長によるときれいに洗いすぎてもできる酒に奥行きがなくなりがちになるらしい。
「どの程度残すかは杜氏の趣味もありますね」
 米を水に漬ける浸漬も重要で、あまり水を吸わせると蒸しあがった米はぼってりしてしまう。
 水質のよさは酒造りへの必要条件として欠かすことはできないし、同様に酒米も大切なファクターである。しかしそれを生かすも殺すも杜氏をはじめとした蔵人の手腕にかかっている。
 
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どの蔵も火入れからいかに短時間で熱を下げるかを重要視している。
志太泉では特別本醸造以上はすべて瓶燗急冷という方法で火入れした瓶を冷ます。

なぜ? と思うほど急な階段。総じて蔵元の階段は急なものが多い。上は麹室や蔵人たちの休憩室などがある。

 酒の旨みを導く麹づくり

 蒸し米を放冷機で冷ますと麹と仕込みに分けられ、麹用は二階の麹室へと運ばれる。室へは階段を上っていくのだが、これがかなり急な造りになっていて驚いた。
 そこへ麹の入った袋をもって上がるには、かなりの体力と集中力を要するだろう。仕込み期間の見学ができないのは残念だが、おそらくここは真冬でも袋を担いで上がる熱気に満ちるにちがいない。
 麹室へ入ってみると、天井が低いせいだろうか、かなり凝縮された空気を感じる。オフシーズンであるため広がるテーブルには何もなく、奥に麹蓋が積まれていた。
 釜揚げなどは蔵人全員でおこなうが、麹は麹屋を中心に3名ほどで作る。志太泉の麹はすべて手作業。吟醸クラスになると昼夜を問わず3時間ごと麹をチェックする。個人に蓄積された経験(データ)は、人の感覚がまちまちであるため伝承しない。それがこの蔵のローカルルールだという。
「麹の段階でおおよその仕上がり具合が予想できます」
 それほどこの工程が重要で、一度麹を室から出せばもう後戻りはできない。今後の工程によっては麹の出来から予想する味にならない可能性もある。
「そこが酒造りの面白みであり悩ましいところなんです」
 そういって笑顔を見せるところはさすが、蔵を背負った人間の度量なのだろう。
 
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なんでも応えてくれた志太泉にも唯一重大な企業秘密がある。
それは会長の素顔。
今回の掲載にあたってぜひ会長と社長、お二人の写真をいただきたかったが、上記の理由で断られた。
会長、無理を言ってすいません。

今の時代だからこそ情報も旨みとなる

 ここで紹介してきた志太泉酒造は、オフィシャルサイトを公開している。しかもその充実ぶりは半端ではなく、製品はもちろん使用している水や米、さらに酵母や製法に至るまで事細かな説明に富んでいる。
 もちろん記事を書いているのは望月社長。そのサイトを見れば社長がいかに志太泉へ愛情を注いでいるのかがわかるだろう。
 昭和43年に東京農業大学品評会で金賞を受賞して以来、これまで志太泉に与えられた数多くの賞は、杜氏や蔵人たちの力はもちろんのこと、この地であるからこそ旨い水や気候に恵まれ、常に磨き上げられた酒を生み出してきた賜物だといえる。
 そしてウェブサイト同様今回の取材でも「志太泉を大切に育てていきたい」という想いと自信が詰まった望月社長の説明が心に強く残った。志太泉のお酒にはやさしい酒質を基本としながらもやや荒いものなどいろいろあるが、それもお客さんの様々な要望をていねいに応えていく現れだろう。その姿勢こそ120年もの間蔵を支えてきた要因にちがいない。
 ただ旨い地酒といってそれを購入して飲むだけでは本当に味わっていないのかもしれない。今回蔵元を訪れたことによりこの先飲むであろう志太泉の酒に深みが増すことは間違いなさそうだ。
 ちなみに志太泉酒造では春から秋のシーズンオフを中心に蔵見学もおこなっている。酒に携わる人でなくても歓迎ということなので、興味のある方は一度オフィシャルウェブサイトをたずねてみてください。[オフィシャルウェブサイト]

 志太泉酒造 株式会社
 明治15年、初代望月久作により創業。
 戦前は「三五の月」「ラヂオ正宗」「ミクニワイン」などを発売。戦後、復興の気運にのり昭和29年に酒造業を再開し、はやくから吟醸造りに取り組んだ。
 昭和50年代より多田信男杜氏のもとで、静岡県の吟醸造りの方法論を模索し、その隆盛とともに全国新酒鑑評会で3回連続の金賞を受賞し、静岡の吟醸の一翼を担った。
 酒名を名づけるにあたり地元志太郡の地名「志太」に志し太く泉のように湧き立つ酒を造りたいという願いを込めて「志太泉」と命名したと伝えられている。
志太泉酒造資料より
普通酒から大吟醸まで、お好みに合う志太泉のお酒をお楽しみください。
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