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静岡の地酒について説明させていただきます。蔵元一覧へ 

 お客さんはなにを求めるのか?

 アナログとデジタルの選別

 世相風俗が大きく変貌した明治の文明開化。それまで「足名屋」という名で酒屋を営んでいた前身から、東海道・岡部宿の造り酒屋を買い取る形で「初亀醸造」はのれん上げした。
 量り売りで酒を提供していたその時代には当然初亀というブランドはなかった。
「なぜ1000円ほどの安いパック酒にくらべて価格が倍以上違うのか?」
 現在、初亀醸造の舵を取る五代目の橋本謹嗣社長は、まるで自問するように言葉を投げた。
 おなじ銘柄の酒を毎年まったくおなじ味にするのは、難しいというより不可能に近い。しかし店頭で毎年決まった銘柄を求めるお客さんは少なくない。
 ではお客さんはその銘柄のどこにお金を払っているのか。味、価格、ブランドやそれに伴う安心感‥。
「さらに蔵の夢も買ってもらっていると思うんです。ですから私たち蔵元のみならず販売店にもブランドが求められる。今はそんな時代ですよ」
 ドキッとさせられる橋本社長の言葉だ。
 確かに我々酒販店も蔵元の意志が詰まった酒を引き継ぎ、そのままの品質でお客さんへ提供しなければならない。その点についての手抜かりはない。
 そう考えると橋本社長の言うブランドとは一体なんなのか? 商品は味さえ良ければそれでいいのではないのか?
 今回、そんな疑問を頭の端に引っ掛けつつ、初亀さんの蔵を見学させていただいた。
 平成七年から使われている「三段こしき」で蒸しあがった酒米は、初亀醸造独自の方法によりすばやく冷やされる。大吟醸や掛米を使う場合は、0度近くまで蒸し米を冷やすという。
 この三段こしきにより、分散して米を蒸すことができ、さらに放冷機で目的温度まですばやく冷やされるのだ。
「効率化というより、理にかなったいい蒸し米をつくるためですね」
 なるほど、最近まで蒸し米はたくさん蒸したものを広げて冷ますしか方法はなかった。この三段こしきと放冷機には便利というより、よい蒸し米づくりへのこだわりを感じる。
 社長について麹室に入ると、そこは大小二つの部屋から構成されていた。
「これも貴重な道具なんです」
 謹嗣社長が手にしているのは積み木のような一本の棒切れ。麹は最高で40度近くまで温度があがる。この上昇があまり早すぎてもいけないということで、麹蓋の下にこの木をかって空気を入れることで温度調節をはかるのだ。
 近年この麹づくりも機械に頼る蔵が増えるなか、初亀醸造では以前まで使っていた自動製麹機の使用をやめたという。
「酒造りにとって麹づくりが非常に大切。だからこそ若い蔵人たちに、機械ではなく五感で覚えてほしい。手は温度計になりますし、目や鼻、耳など体のすべてがセンサーになっていくんです」
 三段こしきや放冷機の設備とは正反対の麹づくり。ミスだって考えられる大事な工程に、あえて人的労力をかけている。
「この箱麹はウチの味にしよう、ということで手作りを貫いています」
 なるほど、各工程において選ぶ手法には、最良の結果を求める意志が込められているのだ。ただ安全な方法で酒を醸すのではない。
――ブランド。
 この言葉に輪郭を成した気がする。
 
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大吟醸の仕込み部屋。天井には冷房のための設備がこちらを見下ろしている。
蔵の随所にこうした温度管理がなされている。

店頭には「あの」純米大吟醸・亀の姿が!
よく聞くとここにある装飾品には、娘さんのヒナ飾りが使われていたりする。
にぎやかなのになぜかホッとする空間である。

 ヤブタと瓶詰めのハイテク管理

 酒造りにとってとにかく配慮しなければならないのが温度管理。環境によっていかようにもなる細菌を相手にしている以上、温度と醸造は切っても切れない関係にある。蔵内を見てまわるなか、その温度管理の徹底ぶりに目を見張った。
 +5度に保たれた大吟醸の仕込み蔵や、仕込み兼貯蔵部屋。最高級の酒に至ると−7度で貯蔵する。ちなみに日本酒はその度数までは凍らないといわれている。
 さらに酒を搾り出すヤブタが設置されている部屋にも冷蔵設備が施されていた! この徹底ぶりはすごい。
「絞りのあいだに温度が上がるのはよくない。こういったこだわりが蔵の特徴になっていくんです」
 温度が高くなるとどうしても酒の酸化がはじまる。一概にそれがダメだとはいえないが、極力悪くさせない努力は怠れない。きっとここで搾り出された原酒たちは快適な温度環境にさぞ驚くことだろう。
 瓶詰めの工程でも室温管理はもちろん、火入れから急速に冷やす冷却装置を備え、吟醸クラスや急冷美酒などはこの方法ですばやく冷やす。そうすることで米のなかにあるさまざまな成分をおさえる効果があるのだ。
 せっかく杜氏が良い酒を造っても瓶詰めの段階で失敗することがあるという。蔵によっては鑑評会でも瓶詰めに失敗して落ちるケースもめずらしくない。そうなっては杜氏がどれだけ仕込みに満足したところで、まさに水泡に帰す結果となってしまうのだ。
 瓶詰めの段階では、よくなることはないが悪くなる危険はあるというから、最後の最後まで気を抜けない作業が続く。
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「日本の食文化を酒とともにゆっくり味わいたい。それをしていかないと日本酒が廃れてしまう」
そんなコンセプトのもとに「フロンティア東条21」という酒造家が兵庫県東条町の山田錦を応援する会に属している橋本社長。

「まだまだ手を加えるところはたくさんあります」

 昭和四十年代、全国酒類ダイヤモンド賞をはじめ数多くの賞を獲得。日本酒をたしなむ人なら“初亀”の名を知らない人はいないほど名を通し、文字どおり初亀醸造は独自のブランドを確立した。
 しかしこの地位を築いても橋本社長は「まだまだ手を加えるところはたくさんあります。とくに冷蔵関係はいくらあっても足りないです」と苦笑いを浮かべる。
 昔ながらの手作りの醸造と、近代設備による温度管理。一見確立されたかに見える環境だが、突き詰めていけば終わりが見えないほど“旨い酒”への道は深くつづいているのだ。
 さらにこの恵まれた時代だからこそ、人の手が必要なところからは徹底的に機械を排除する。これからも初亀という酒を造るにあたり箱麹にこだわり続け、生身の麹菌と肌を合わていくのだろう。
 ブランドとは旨い酒に与えられるものではなく、旨い酒を造るために惜しまないあまたの努力、もっといえば苦悩にまでおよぶ“心組み”に贈られるものかもしれない。ここまできて橋本社長がはじめに投げかけた「なぜパック酒にくらべて価格が倍以上違うのか?」という問いを思いだし、それが疑問にすらならないものだと感得した。
 そして初亀の入ったケースを受け取る我々酒販店も、品質管理をはじめ手間を惜しまず販売していかなければならない。品揃えはもちろん、商品に対する説明でお客様に納得してもらい、満足して店を後にする。ただ品物だけを袋に入れるのではなく、そのなかには店で得た安心や信頼も詰める。これこそ酒販店側のブランドなのではないだろうか。
「お客さんの口に含まれるまでが酒造り」
 橋本社長がそう言うとおり、我々もまた酒造りの一端を担っているのだ。

 初亀醸造 株式会社
 はじめは寛永十二年、静岡市内で「足名屋」という酒屋を経営したのが創業。
 明治初年に岡部町にあった平井屋という造り酒屋を買い取り現在に至る。かつて東海道とよばれた旧国道一号線に面した蔵は、その外観からも深い歴史を感じる。仕込み蔵は昭和三十七年建造だが、昭和初期に建てられた木造の冷蔵庫も残っている。
 まだ静岡の地酒が見向きもされなかった時代、昭和四十二年に三大コンテストで一位に輝くと、以降五年連続で全国鑑評会金賞。昭和四十六年には全国酒類ダイヤモンド賞も手中に収め、初亀の名が全国に知れる。
 今は滝上秀三杜氏をはじめ六名の蔵人で酒を醸している。現社長である橋本謹嗣氏は五代目。
提供資料より
普通酒から大吟醸まで、お好みに合う初亀のお酒をお楽しみください。
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